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仙台地方裁判所 平成6年(わ)18号 判決 1994年6月01日

本籍

仙台市青葉区五橋一丁目四番

住居

仙台市青葉区五橋一丁目四番二三号 熊谷マンション七〇一号

無職

井上一平

昭和一八年九月二九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官福田孝昭出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金一八〇〇万円に処する。

被告人が右罰金を全額納めることができないときは、その未納分について五万円を一日に換算した期間労役場に留置する。

被告人に対し、この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、北海道北見市大町五六番地に住所を有し、仙台市青葉区国分町二丁目一四番一号ライオンビル太陽館ほか数か所において飲食店を営むなどしているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上を除外するとともに、自分の妻井上みよ子が右各店のうちの一部の店の経営者であるかのように装い、同女名義を用いて右飲食店経営による事業所得にかかる所得税の確定申告を行うなどの方法により所得を秘匿した上、以下第一ないし第三のとおり不正の行為によりその各記載の額の所得税を免れた。

第一  昭和六三年分の実際総所得金額が三九九一万八一〇〇円であったにもかかわらず、平成元年三月一四日、北海道北見市青葉町三番一号所在の所轄北見税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が二六九万九四三九円で、これに対する所得税額が一八万九九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一五四九万三五〇〇円と右申告税額との差額一五三〇万三六〇〇円を免れた。

第二  平成元年分の実際総所得金額が六〇一四万五四二〇円であったにもかかわらず、平成二年三月一六日に申告書を郵送する方法により翌一七日、前記北見税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が一二一万六五八三円で、これに対する所得税額が四万二〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二五三三万四〇〇〇円と右申告税額との差額二五二九万二〇〇〇円を免れた。

第三  平成二年分の実際総所得金額が六九一三万二五二九円であったにもかかわらず、平成三年三月二八日、前記北見税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が二三万〇五三八円で、納付すべき所得はない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二九九八万八五〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

一  被告人の

(一)  当公判廷における供述

(二)  検察官に対する供述調書九通

一  井上みよ子(二通)、工藤隆(二通)、泉田良作(二通、平成六年二月三日付けのものは不同意部分を除く。)、郷家奈穂美(二通)、大内明美及び武田絵美子の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の調査書一六通

一  大蔵事務官作成の科目事業専従者控除についての調査書(脱税額計算説明資料の抄本)

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

一  押収してある確定申告書三通(平成六年押第三三号の一、三、五)及び収支内訳書三通(同号の二、四、六)

(確定裁判)

被告人は、平成五年三月二五日仙台地方裁判所において、貸金業の規制等に関する法律違反、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反の罪により懲役二年四月及び罰金二五〇万円(懲役刑につき三年間刑執行猶予)の言渡しを受け、右裁判は同年四月九日確定したもので、右事実は検察官作成の前科調書及び右裁判に対応する判決書謄本により、これを認める。

(法令の適用)

罰条

第一から第三の各事実 各所得税法二三八条一項(懲役と罰金を併科)二項

併合罪の処理

余罪の処理 前記確定裁判のあった罪との関係で刑法四五条後段、五〇条

併合罪加重 刑法四五条前段、懲役刑につき四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第三の罪の刑に法廷の加重)、罰金刑につき刑法四八条二項

労役場留置 罰金刑につき刑法一八条

刑の執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項

保護観察 懲役刑につき刑法二五条の二第一項前段

(量刑事情)

本件は、飲食店を経営する被告人が、三年間にわたり所得税を過少に申告等することによって合計七〇五八万円を脱税したという事案である。その動機ないし経緯に酌むべき事由もなく、二重帳簿を作って売上金を除外し、第三者名義の預金口座等に隠匿し、或いは経営主体を妻に仮装するなどの方法によって、巧妙に所得を隠匿した手口も極めて悪質であり、ほ脱率も極めて高率で、ほ脱額も高額であることをも考えると、その責任は重大である。余罪の関係にある出資法違反とその全体を評価しても、犯情極めて悪質で事案重大であり、これまでの前科関係等に鑑みても、本件について懲役の実刑に処することも十分考慮に値するところと言わなければならない。

しかしながら、発覚後においては、反省の態度を示し、修正申告をして、本税、重加算税、延滞税等を完納しており、地方税についても、納付額が確定次第、本件保釈保証金をもってその支払いに充てることになっていること、これまで数回体刑前科あるも、未だ懲役の実刑に処せられたことはないことなど、被告人の利益に考慮すべき事情もあるので、これらを最大限考慮し、特に懲役刑については、保護観察付きでその刑の執行を猶予するのを相当と認める。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑-懲役一年及び罰金二三〇〇万円)

(裁判官 千葉勝郎)

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